牡牛座の絵画

ユピテルとイオ/コレッジォ

コレッジォ作「ユピテルとイオ」1532年 ウィーン・美術史美術館


作者のコレッジォはルネサンス期の画家ですが、この時代は、絵も誰でも自由に描けるというわけでもなく、出資してくれる「パトロン」があってこそ出来ることで、しかも中世イタリアではキリスト教の勢力が強くなり、主にカトリック教会がすべての中心になっていたこともあり、表現には、様々な制限がかかっていた様です。

ルネサンスとは、簡単にいうと、窮屈になってきたキリスト教勢力のもとで、古代ギリシャ・ローマという、キリスト教以外の世界を知ることによって人間を中心とした視点(人間性の回復)に戻そうとする流れで、禁欲的な文化を脱して、合理的なものの見方を追求しようとした「文芸復興運動」のことです。

スペイン勢力下のイタリアでは絶対的な権力のあった「フェリペ2世」の庇護下にいた「エウロペの略奪」のティッツァーノなどは、様々な肉感的な「裸婦像」を注文通りに描くことが出来た画家で、画題も自由に選べるくらい信頼されていたそうですが。。エウロペの略奪は牡牛座の神話がモチーフになっています。

コレッジォもパトロンのゴンガーザ公のために、官能的な、ゼウスの愛の変身storyとして連作を4枚あげています。

神話のゼウスは、ジュピター、ローマ名「ユピテル」です。

ギリシャ神話のゼウスは、天界から、いつも人間の世界を見下ろしては、次々と美しい女神や人間の女性を発見し、嫉妬深い正妻の女神ヘラの目を盗んでは、姿を変えて美女に会いに行き、逢瀬します。

つまり、正妻がいながら、堂々と浮気して、神々や英雄たちを生み出しています。

これは、ゼウスが聖婚の神だからと言われていますが、聖婚とは、古のゼウスを信奉するインド・ヨーロッパ語族が、征服した地で、先住民の女神たちを同化する過程でできたもので、根本は、自然界の諸現象と、星と星とを巡る神話の合体されたものであったりしたもので、ゼウスは、場所によっては、天空神の象徴とされたりしていたということです。

ギリシャ神話の神々や物語を「象徴」とするものが、ヨーロッパでは、ずっと歴史的に残り続けていて、形や、解釈を変えながらも、現代の私たちに語りかけてくれるものがありますね。

牡牛座としてのイオの物語です。

天界のゼウスは、下界を見下ろしていましたが、正妻ヘラに支えるアルゴスの美しい巫女イオを気に入ります。
イオはその地方の川の神イナコスの娘と言われていますが、用心するイオに対し、ゼウスは黒い雲に変身して近づいて行き想いを遂げます。
しかし、黒い雲が垂れているのを不審に思った女神ヘラは、浮気の現場に突然現れてしまいます。
慌てたゼウスは、イオを白い牝牛の姿に変身させて難を逃れます。
しかし、ヘラは騙されませんでした。
嫉妬深いヘラは、イオである牝牛をゼウスから譲り受け、体中に百の眼があると言われている巨人アルゴスに見張らせ監禁します。
そして、嫌がらせに、虻を牛の耳に放って、耳鳴りで、苦しめたといいます。
追い立てられたイオが、たどり着いた海をイオニア海といい、さらに逃げて、ヨーロッパとアジアの境目にある海峡を渡りますが、その海峡をボスポラス(牝牛の渡渉)海峡というようになったそうです。
百の眼のアルゴスは、ゼウスに命じられたヘルメスによって殺されます。

コレッジォは、ゴンガーザ公の発注で、ゼウスの愛の変身storyを4連作で描いています。
ゼウスの官能的な情事シーンですよね。

  • ダナエ(イタリア・ボルゲーゼ美術館)
  • ユピテルとイオ(ウィーン・美術史美術館)
  • レダと白鳥(ベルリン・国立絵画館)
  • ガニュメデスの略奪(ウィーン・美術史美術館)

ルネサンス期は、絵画を肉感的な裸婦、官能的シーンなど、王侯貴族を楽しませる、好まれる様な嗜好で描くことは、普通にあったらしいですが、キリスト教的、寓話を意味するシンボリックなものを描くことによって、ある程度許容されていたといわれています。

ギリシャ神話を題材にすることは、比較的多かったのも少しは頷けますよね。

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