イアソンとメディア/ーギュスターブ・モロー
ギュスターヴ・モロー作「イアソンとメディア」1865年 パリ・オルセー美術館
牡羊座の神話について描いた絵画は少ない感じなのですが、「イアソンとメディア」があります。
モローは、聖書や神話を題材にした作品を多く残した代表的なヨーロッパ世紀末の「象徴主義」の画家と言えるでしょう。
「象徴主義」の画家の中には、実際に自分で見た夢を「意識化」して、そこからさらに「視覚化」した人もいます。
絵のモチーフは、牡羊座の神話に登場する、継母から双子の兄妹の命を守るため、ゼウスから遣わされた黄金の牡羊の毛皮です。
その後、ギリシャ神話では、どんなストーリーが展開されているかと言いますと。。。
そこで、コルキスの王女で魔女のメディアに会い、二人は恋仲になりますが、彼女の助けを得て、イアソンは無事黄金の毛皮を手にすることになります。
ここで、登場するメディアは、薬を操ります。(つまり魔女ですね。)
決して眠らない竜を眠り薬で眠らせ、その隙にイアソンが刃で竜を倒し、毛皮を手に入れるのです。
北欧神話でもそうですが、薬を調合するものは賢者でありながら、魔法使いとも呼ばれていました。
なので、メディアも魔女と呼ばれていますが、モローのメディアは、世紀末の絵画でも、多くの作品のテーマにされている「宿命の女」として描かれています。
「宿命の女」とは、「男を堕落させる女」「危険をはらんだ女」時として、神聖な聖母マリアですら、人を奈落の底に突き落としてもなお、美しく咲き誇る女です。
イアソンと、メディアは、二人でイアソンの故郷イオルコスに戻りますが、メディアは、魔法を使い周囲を敵にしてしまいます。
そして、二人は再び、国を終われコリントスに逃れますが、イアソンはコリントスの王から、娘の婿に望まれ、メディアを裏切ってしまいます。
怒ったメディアは、花嫁に呪いの衣装を贈って焼き殺し、王女とイアソンの間に出来た子供たちも、次々と殺していきます。
世紀末ヨーロッパでは、「ファム・ファタール」と言って、果敢にテーマとして「宿命の女」が描かれました。
ルネサンス期には、禁欲がまず解放されて、人間の肉体も肯定され、女性は、生命の躍動感に溢れた生々しい裸体としてなど、多くの画家に好んで描かれていますが、当時の女性の立場は、そこまで自己主張出来ないものだったのかもしれません。
時を経て世紀末期くらいには、ある程度、許容範囲を持った女性性が解放されていったのかもしれません。
一つの象徴的なこととしては女性性と共に「エロスと美」も同じく解放されて行ったのかもしれないと思いますが、ここで描かれている「イアソン」は、どちらかといえば、女性とも取れる、男性ともとれる、とても抽象的な存在として描かれていると思います。
世紀末ヨーロッパでおこった「象徴主義」とは、目には見えない人間の内面や観念などを象徴的に表現することを目指した流れで、文学から始まっているといわれますが、絵画による表現も活発でした。
科学が急速に発達し、世の中が物質的進化を遂げている一方で、人間の内面や深層心理を解明しようとする、フロイトやユングの様な心理学者が現れはじめたのも、この時代です。